01.28

エッシャー美術館(オランダ・ハーグ)
騙し絵でお馴染みのオランダ人画家、マウリッツ・エッシャー(1898~1972)。“視覚の魔術師”とも称される彼の版画を120点以上コレクションするエッシャー美術館を訪れました。
Escher in Het Paleis
【住所】 Lange Voorhout 74, Den Haag, NETHERLANDS
【営業時間】 午前11時~午後5時
【休館日】 水曜日
【入館料】 € 13.50(2025年)
【TEL】 +31 70-4277730
【URL】 escherinhetpaleis.nl/
場所はハーグの美術館地区です。車で来たので通りの地下パーキングに駐車しましたが、旧市街は一方通行や進入禁止も多いので歩いてきた方が良いでしょう。
200年以上の歴史を誇る建物は、エッシャーの母親だったエマ王妃の「旧冬の宮殿」が使われています。
1階の常設展はエッシャーの芸術家としての成長にフォーカスして企画されています。
生い立ちを追いかけながら有名な作品を一度に見られる贅沢なフロアです。
マウリッツ・エッシャー
Maurits Cornelis Escher
公式サイトには エッシャーについての日本語解説 も掲載されているので、読んでおくと理解が深まります。
また、2階ではエッシャーの視点を体験できるコーナーも。
金属球を手にして自身を描いた「写像球体を持つ手」の実物は1階に展示されています。
インスタレーションも見逃せません。
Langenfelder Lichtwand は、一見光が動いているように見えるのですが…実は自分自身によってつくり出されています。ドイツの前衛芸術グループ Group Zero を率いた オットー・ピーネ Otto Piene(1928~2014)による貴重な作品で、ぜひ見学したかったものの一つ。
宮殿そのものも美しく、寄せ木細工の床やシャンデリアも見どころです。
展示されている作品を片っ端から掲載しても良いのですが…それではこれから訪れる人の楽しみが無くなってしまうので、日本の美術の教科書にも載るほど有名な作品を数点だけご紹介します。
上昇と下降
Ascending and Descending
代表的な作品の一つはこれかな、1960年制作の「上昇と下降」。
大勢の修道士が等間隔に並んで、一方の列は階段を昇り続け、他方の列は下り続けていますが、永遠に終わる時は訪れない…という、どうにも無力感を覚えずにはいられない悲しい主題に感じられます。もちろんこんな階段を実際に作ることはできませんが、当時発表されたばかりのペンローズの三角形から着想を得て描かれたことでもよく知られています。
ここエッシャー美術館で作品を目の前にして初めて、バルコニーや階段で休んでいる“自由な人”の存在に気付きました。みんなは同じところをぐるぐる回っているのに、バルコニーの彼は遠くからそれを眺めている…まるで僕の人生みたい!と親しみを覚えたのですが、この自由な2人についてエッシャーは以下のように語っており、少し考えさせられるKitagawaでした。
Two recalcitrant individuals refuse, for the time being, to take any part in this exercise. They have no use for it at all but no doubt sooner or later they will be brought to see the error of their nonconformity.
Poole, Steven. “The impossible world of MC Escher.” The Guardian, June 20, 2015.
滝
Waterfall
もう一つ、無限を感じさせる名作が「滝」でしょう。先の「上昇と下降」の翌年に制作されています。水道橋と水車を組み合わせて永遠に流れ続ける滝が描かれていますが、滝の部分を隠して右側だけを見れば向こう側へと流れているようにも錯覚するから不思議です。水路を支える柱を注意深く観察すると位置が入れ違いになっていて、ここにもペンローズの三角形が見て取れます。左下にはグロテスクな植物が描かれていますが、これはエッシャーが自宅近くで見たコケを拡大したものだそうです。この作品については詳しい解説がありますので、リンクを載せておきます。
www.escherinhetpaleis.nl/escher-today/waterfall/
メタモルフォーゼ Ⅲ
Metamorphosis III
最後は動画で紹介します。エッシャーの重要な主題である「永遠と無限」を追求したシリーズです。横7mの木版画が圧巻!白黒の市松模様が、爬虫類、蜂の巣、昆虫、魚、鳥、馬、ブロック、街、最後はチェス盤へと流れるように姿を変えていきます。作品名がまさに、生き物の「変態」を意味していますからね。ちなみにこの作中の町はイタリアのアトラーニ Atrani だと言われていますが、全体の色や模様にどこか和のテイストを感じるのは僕だけでしょうか。
現実と非現実が交差する不思議なエッシャーの世界。
見るほどに引き込まれ、頭の中で心地よい混乱が渦巻きます。ちょうどこのとき僕は 武蔵野美術大学で西洋美術史を学んでいて、学芸員課程も取っていたので展示や解説のテクニックも大いに参考になりました。
なお、日本ではハウステンボスがエッシャーの一大コレクションを収蔵しており、定期的にエッシャー展を開催しています。彼の作品はリトグラフなどの版画が多いので、オランダのハーグまで行くのはちょっと…という方はハウステンボスでもその不思議な世界に触れることができます。
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