09.16
筑波大学の夏休み合宿で昆虫採集(日本・菅平高原)
涼しい菅平高原で昆虫採集をしました!めっちゃ楽しい夏休み合宿で、一生ものの知識と経験と、そして思い出を得られました。ここではKitagawaが集めた虫さんたちをご紹介します。
夏休みに入ってからも慶應義塾大学のデータサイエンスの授業が続いていますが、この夏もっとも期待と不安をもって参加するのがこの筑波大学の野外実習プログラムです。昨年履修した 生命環境学群の気象学実習 は通常の授業でしたが、今回の実習は一週間にわたる合宿として実施されます。僕も大学で基礎生物学くらいは履修しており、シロアリさんの研究を発表したりもしましたが…はたして動物分類学の講義についていけるでしょうか?ともかく履修申請が受理されたので、大学のクラスメイトとともに新幹線で長野県上田市に向かいました。
実は地球上にいる生き物のほとんどが昆虫です。すべての動物種のうち約75%以上を昆虫が占めており、個体数にすると人間ひとりに対して3億匹もいるそうです!そして昆虫はおよそ32の目に分類することができ、今回の実習ではそれらを自ら採集して分類し、標本にすることを目標にしています。
合宿では初めに座学の授業があり、まさか初日から講義が深夜0時を過ぎるとは思いませんでした…そして連日の昆虫採集に標本づくり、さらには課題やプレゼンテーションもあって、とても忙しいスケジュールです。しかし生物学を専攻するガチ勢の学生に囲まれて学んでいると、すっかり僕も虫好きになりました!今では自宅に双眼実体顕微鏡や標本をつくるための機材まで揃っているほどです(笑
※ このページには多くの昆虫の写真が含まれています、虫が嫌いな方はご注意ください。
昆虫採集
教室で目・亜目ごとの分類や生態を学んだら、実際に捕まえるためにフィールドワークへと出かけます。子どもの遊びとは違って昆虫採集にはきちんと道具や方法があります。初めて見るものも多く、出発前に使い方や注意事項を教えてもらえました。節足動物学の先生から直接指導をいただけるなんて、学生ならではですね。
ネット(虫取り網)で集めるテクニックもいくつかあって、それぞれに名前も付いていました。採集を始めるとつい時間を忘れて夢中になってしまい、どんどん珍しい種が欲しくなってきりがありません。そうそう、先生が「クマが出るから単独行動しないように」としつこく言っていたのに、夜こっそり連れ立ってクワガタやカブトムシを探しに行く男子や、女子まで風呂上がりにパジャマのまま懐中電灯を持って寮を抜け出したりしていて、みんな本当に虫が好きなんだな~と驚きました。(虫が相手なのに女子がけっこう多いんですよ)
昆虫は地上だけでなく土壌性昆虫や水生昆虫もいるので、それらも集めました。特に土の中には微生物のような昆虫もいっぱいいることを知ったので、いずれツルグレンを自作してみようと思います。また、水生昆虫も大量に採れました。トビケラ目トビケラ上科の幼虫は小さく切った葉っぱをつなぎ合わせて筒状のおうちを作っていてユニークです。下の写真に何匹もいるのですが…知らないととても見つけられないですよね。
この実習はグループ分けされていて、僕は生物学類3年生の子たちとの3人組。教室には「星取り表」があって、グループごとにどれだけ多くの目・亜目を捕まえられたか印を付けていくのですが…なんと目・亜目の数が46もありました!今では多少分かりますが、普通は昆虫の種類を46も言えませんよね。結果を書いてしまうと、僕らの班は25の目・亜目を集めることができました。菅平高原には生息していない昆虫もいるので(例えばカマキリ目やゴキブリ目はいないらしい…両方とも怖いのでいなくて助かった)半分集められたら善戦と言えるのではないでしょうか。
標本作成
採集した昆虫は研究に役立てるために標本にします。
標本づくりも初めての経験ですが、これも専門の先生方が詳しく解説と実演をしてくれました。その後はもちろん自分たちでも標本を作成します。下の写真は僕が最初に捕まえたハチさんです!
マルハナバチ Bombus sp.
女子が羨ましがっていたのでそこそこ人気のハチさんらしく、確かに丸っこくて毛もふさふさしていて、ぜんぜん怖くありません。分類としては膜翅目(ハチ目)細腰亜目です。
ハチ目は昆虫の13%を占めています。発見しやすいかなと思って最初はハチっぽいのを一生懸命集めていたのですが、調べてみると半分以上がハエでした。ちなみにハチ目とハエ目は翅で区別することができて、ハチは羽根が4枚ですがハエは2枚です。とはいえ、めっちゃ格好いいハエさんもいっぱいいました。ハエ目も昆虫の15%を占める一大勢力です。
あと、昆虫採集で絶対に捕まえたいのはやっぱりチョウチョ、鱗翅目(チョウ目)です。
でも猛スピードで飛ぶので簡単には網に入ってくれません…さらに、捕まえたあと標本にするのも技術が要ります。これもやり方を教わったので、展翅テープを使って展翅板のうえに丁寧に翅や触角をひらいてあげました。少し傾いていますが…たぶん大丈夫、初めてなので一時間くらいかかりました。
キタキチョウ Eurema mandarina
ジャノメチョウ Minois dryas
そうそう、チョウチョは三角紙って紙に挟んで連れて帰るんですが、授業中にチョウチョの様子が気になって少し覗いてみたら、逃げ出しちゃって教室中を飛び回ってひと騒動でした(汗
(大学院生のTAさんが虫取り網でなんとか捕まえてくれました)
下の写真はフィールドで見つけた謎の生き物ですが、先生に訊いたらこれも昆虫で、しかもチョウ目とのこと。そういえばチョウチョは完全変態でしたね。これはアケビコノハの幼虫で、アケビの葉にしか棲まないそうです。
アケビコノハ Eudocima tyrannus
あとで図鑑を見たら同じポーズをしていて改めて驚きました。知らないとキモいと思ってしまう生き物も、生態を知ればその姿から力強さを感じるから不思議です。先生曰く、連れて帰って育てたらちゃんとチョウチョになるそうですが…残念ながらアケビの葉っぱが手に入りそうにありません。
ほかにいかにも昆虫っぽいのはトンボかな、蜻蛉目(トンボ目)です。
トンボさんはそこら中にいるので割と簡単に捕まえられるものの、似たような種が多くて同定が難しい。そして、肉食なのできちんと処理してあげないと腐っちゃうし、標本づくりも少し面倒です。でも翅脈が美しいのでトンボさんがいると標本箱が映えますね!
シオヤトンボ Orthetrum japonicum
ところで昆虫で最大の勢力が鞘翅目(コウチュウ目)で、昆虫の40%を占めます。
ほかの子がいかにも昆虫図鑑に載っていそうなクワガタとかを見つける中、僕はちっちゃな黒い虫しか捕まえられずにいたら、まるで宝石のように美しいカメムシを先生が捕まえてくれました。めっちゃ格好いい!半翅目(カメムシ目)で、不完全変態群の70%を占めるそうです。
クチブトカメムシ Picromerus lewisi
ここからは普段生活していてもまず出会わないか気付かないやつを紹介します。
筆頭はガロアムシ目のガロアムシで、特殊で希少な昆虫だそうです。わざわざ全員でガロアムシを捕まえに遠征したのですが、ほとんど誰も見つけられないなか他大学から来ている僕と僕のクラスメイトで何匹も捕まえることができました!湿った石の裏の土の間に潜んでいて、高速で走り回ります。僕が持って帰っても研究に役立てることは難しいので、このガロアムシは同じ班で何かと手助けしてくれた隣の席の子に託しました。
ガロアムシ
動きが面白い昆虫に、長翅目(シリアゲムシ目)があります。
その名の通りお尻を挙げて歩くんですよ!これは動画をアップしたので、お尻を挙げて歩くさまを見てみてください。あと顔が馬面なのも面白いですね。学校でもらった資料をみると マルバネシリアゲ Panorpa nipponensis Navás に模様が近い気がするんですが、シリアゲムシ目は種同定がとても難しいそうです。
シリアゲムシ
あとは教材のスケッチをみて格好いいのでぜひ見つけたかった革翅目(ハサミムシ目)。石の下やお花の上にいるそうですが、残念ながら自力では捕まえることができず、友達からもらいました。尾毛がハサミになっていて強そうですよね!
ハサミムシ
そうそう、川から採ってきた水生昆虫もたくさんいるのですが…標本づくりで忙しくて僕は手が回らず、ほかのメンバーが分類を進めてくれました。ちなみに水生昆虫はみんな「すいこん」って略すようです。
そんな水昆たちは乾燥標本にできないので、このように液浸標本にします。
これは襀翅目(カワゲラ目)で、カワゲラの幼虫です。水の綺麗なところにしかいないらしく、成虫になると空を飛びます。
カワゲラ
最後は、土壌性昆虫。
驚いたのは目に見えないくらい小さな昆虫がいることで、今回の実習で初めて存在を知ったトビムシさんに心奪われました。三角の顔から出ている長い触角がまるでウサギさんみたいに見えませんか?
フシトビムシは粘管目(トビムシ目)分節亜目で、まったく目には見えないサイズです。そこら辺の土の中に大量にいて、土壌の有機物の分解を担っているそうです。顕微鏡を覗きながら一個だけ取り出すのが難しすぎて、隣の子に頼んでやってもらいました。
フシトビムシ
プレゼン発表
最終日の前夜にはプレゼンテーションがあって、みんなで分担してすべての目・亜目について発表します。生物学科の学生を前にまともな発表ができるかどうか不安でしたが、うちの大学は一年生の時からプレゼンを(しかも英語で)さんざんやっているので緊張せずに話すことができたと思います。
Kitagawaが担当したのは直翅目(バッタ目)で、その亜目であるキリギリス亜目とバッタ亜目の分類をテーマにしました。つまり、一言でいうと バッタとキリギリスをどうやって見分けるのか? という話です。
下の写真は発表のために描いたスケッチです。生物学のスケッチは作法があるので一年生のときに授業でやっておいて良かった~と思いました。徹夜や早起きして取り組んでいる人もいましたが、僕はこういうの割と得意でほぼ一発で描けちゃうので、発表日に仕上げました。
モデルは下のイナゴモドキです。
僕自身、この発表をするまでバッタとキリギリスの違いなんてまったく知りませんでしたが…かなり違うことが分かりました。見分けやすいのは触角の長さで、バッタの触角は頭部と前胸の長さより短いのですが、キリギリスの触角は体長を超える長さです。あと鳴き方も違って、バッタは前の翅と後ろの肢を擦り合わせて音を出しますが、キリギリスは前翅だけで音を出します。
下の写真はこの筑波大の実習が終わったあとすぐに出かけたモンゴルのハラホリンで見つけた虫さんで、すぐに直翅目だと分かりましたし、バッタ亜目まで区別することができました。動物分類学の知識が少しあるだけで、昆虫を見る目がこれほど変わるものかと我ながら驚きました。ちなみにバッタは体の色が変わるそうで、確かに草むらのバッタは緑なのに、石ころが多いと本当に茶色っぽい体色になることも確認できて感動しました。
というわけで、ブログを読んだ方なら上に並んでいる写真がバッタかキリギリスかを区別できるのではないでしょうか?
合宿生活
この夏休みの実習が忘れられない思い出になったのは、やはり山での共同生活だったことも大きいと思います。大学では僕もサークルや部活に入っていますが、一週間もの長い合宿は初めてで、しかも実習ということで先生がいたり授業があったりして、程よい緊張感も良いですね。なんか学生になった気分です(もちろん学生なんですが、笑
一番印象に残っているのは食事で、とにかくご飯が美味しい。あとは給食当番があったりして、班ごとに食事の準備を行なったりもしました。2~3日目くらいにはほかの班の子たちとも打ち解けて、所属大学や学年を超えて交流でき、みんなで一緒にお風呂に入ったり夜遅くまでおしゃべりして騒いだりと、なんか青春っぽい体験もできました。作業を手伝ってくれた同じ班の筑波生、温かくご指導をいただいた先生方、寮で同室だった他大の院生や、何よりこの実習に一緒に参加してくれたうちの大学のクラスメイトには感謝です。
ガチの虫好きが集まる筑波大学の野外実習。授業中にチョウチョが逃げたり、寮にまで虫を持ってきた友達についうっかり「僕が虫を苦手なの知らないの!?」と口を滑らせて場を凍り付かせる一幕もありましたが…今ではリュックに虫取り網を持ち歩く程度に虫さん好きになりました!
Kitagawaは生物専攻ではありませんが、夏休み明けは自大学で分子生物学の実習に参加しています。今度の相手は目に見えない大腸菌。白衣を着て大腸菌にプラスミドDNAを導入する実験を行なっていますが…この話はいずれ、また。
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