02.23

エルデネ・ゾー(モンゴル・ハラホリン)
16世紀創建のモンゴル最古の仏教寺院跡で、世界遺産オルホン渓谷きっての観光名所。敷地が広大なのでゆっくり時間をかけて見学しました。現在は18世紀に再建された寺院と、数々のモンゴル仏教美術のお宝が残っています。
Эрдэнэ Зуу хийд
【住所】 モンゴル国 ハラホリン
【入場料】 10,000 Tg(約3 USD)
(写真撮影: 別途 20,000 Tg)
【TEL】 +976 7032 7285
【URL】 erdenezuu.mn/
かつてモンゴルの政治と宗教の中心であったオルホン渓谷に位置し、ハラホリンの北東の外れにあります。エルデニゾーはもちろんのこと、オルホン渓谷全体が オルホン渓谷の文化的景観 Orkhon Valley Cultural Landscape としてユネスコ世界遺産に登録されており、その規模は東京23区の倍くらいの面積に及びます。
ハラホリンではすぐ近くの ムンフスーリ・ゲルキャンプ Munkhsuuri Ger Camp に宿泊。モンゴルで手配した5日間のプライベートツアーの2日目夕方に カラコルム博物館 を見学した後、3日目午前中にガイドさんと共にエルデニゾーを訪れました。その後は大自然と遊牧民の生活を見にオルホン渓谷を横断します。続きの 世界遺産オルホン渓谷を4WDで疾走!水も電気も無いゲルに泊まって遊牧民の生活を体験 の旅行記と合わせてご覧ください。
エルデネ・ゾー
Erdene Zuu Monastery
まずは世界史の復習ですが、元 Yuan の滅亡は1368年でした。かつて栄華を誇ったモンゴル帝国は14世紀に解体が進み、カラコルムも明によって破壊されます。その後モンゴルは15~16世紀にダヤン・ハーン Dayan Khan によって再統一。1580年、アブタイ・サイン・ハーン Abtai Sain Khan がダライ・ラマ3世 Sonam Gyatso と会見し、チベット仏教をモンゴルの国教として宣言します。これを受けて1586年に建てられた僧院がエルデネ・ゾーの起源です。調査によって、建設には周辺のカラコルム遺跡の石が使用されたことが分かっています。また、宗派としてはチベット仏教ゲルク派に属しています。このように、ダライ・ラマ3世によって任命されたハーンによって建立されたエルデネ・ゾーですが、アブタイは1588年に死亡。17世紀には繰り返される封建諸侯同士の戦禍によって寺院の荒廃が進みます。その後、再建されるのは18世紀になってから。62の寺院が建てられ、再び1,000人以上の僧侶が住むようになります。現在に跡を残すのは18の寺院で、1944年以降は国の保護下に置かれています。(Kitagawa)
周辺の様子
エントランス
入場券
現地案内図
一辺が400mの城壁に囲まれており、ゴルバンゾーや黄金塔、ラブリン寺などが点在しています。入って左手に見える寺院群、ゴルバンゾーから見学するのが分かりやすいと思います。
ゴルバン・ゾー
Gurvan Zuu
エルデニ・ゾーで最初につくられた寺院がこれらの建物で、煉瓦と石で建てられた中国風の寺院が三棟並んでいます。入り口はすべて東を向いています。周囲を囲む塀と扉は後年に追加されたものです。中に安置されている仏陀の像は、建物によって異なる年代の仏陀を表現しています。ぜひ顔の表情などを見比べてみてください。
西寺
Western Zuu temple
建物に回廊が付いていました。
頭が青い仏像をはじめて見ました。
西寺で目を惹いたのはこちら、モンゴル語で балин(バリン)と言うそうですが、いわゆるトルマと呼ばれるチベット仏教のお供え物です。砂糖やバターで作られており、1965年に博物館のオープンを記念して作られたものの実物のようです。
中央寺
Gol Zuu temple
中央寺で圧倒的な存在感を放っているように感じたのは、ご本尊を差し置いてこちらの三つ目の青い鬼!三つ目で怒り狂っていると言えばマハーカーラ Mahakala でしょうか…でもなぜか腕が4本ではなく2本でした。帰国後に調べてみると、最古の系統のチベット仏教では2本腕で描かれるそうで、逆に6本に増えることもあるようです。ちなみに日本には福の神として伝来しており、大黒さんとして七福神に入っていたりして…ちょっと信じられない変貌っぷりですね(笑
東寺
Eastern Zuu temple
分かりましたか、お釈迦様の年齢の違い。
Kitagawaはこの子が一番若い子供時代の像じゃないかと思うのですが、いかがでしょうか?
展示室
向かって左手にある Temple of Tsamba と右手にある Temple of Amitayus は、それぞれ展示室になっていて仏画や仏像が展示されていました。
個別の説明は割愛しますが、美しいタンカ Thangka の数々は18~19世紀のもののようです。
こんな抱き合っている仏像は初めて見ました!
やはり頭部が青く彩色されていますね。
こちらの展示室の右手の作品は、よく見ると顔料だけでなく金糸や銀糸の刺繍が入っていて非常に煌びやか。描かれている神様は Mahasiddha Shavaripa と記載がありました。
下のタンカは、また三つ目の青い鬼。
しかし、題名を見るとБалданлхамとなっており、英語で Shri Devi とされています。気になって調べてみると、ダライ・ラマつまり観音菩薩の化身の一つで、シュリデヴィのほかパルデンラモとも呼ばれる怒りの女神だそうです…女神!こちらは女性なんですね。先のマハーカーラも憤怒神ですが、チベット仏教ゲルク派にはヤマラジャ、ヴァイシュラヴァナ、マハーカーラという三人の守護神がいるようです。僕は仏教史に詳しい訳では決してないので、もし間違いがあれば指摘してください。
ダライ・ラマ寺
Temple of Dalai Lama
ゴルバンゾーの手前にあるダライラマ寺。
中は見られませんが、屋根の飾りや彩色が青空に映えて印象的でした。
黄金塔
Golden Stupa
このストゥーパのことを地球の歩き方というガイドブックはなぜか「ソボルガン塔」と表記していますが、訳も発音も何もかもデタラメで笑ってしまいました。ソボルガン?恐らくсуваргаって単語を拾ったんでしょうけど、これでは意味が「仏塔の仏塔」となってしまいます。昔から平然と嘘が書かれていることで有名ですが、特にモンゴル編は内容の間違いが何十年もそのままです。
菩薩寺
Temple of Avalokiteshvara
ラブリン寺
Lavrin Temple
北西にある立派な建物は現役の僧院。
観光客でも参加できるプログラムがあるようでヨーロピアンがお坊さんと何かをしていましたが、さすがに宗教的な行為を遊び半分で行なう感覚は持ち合わせていません。
こちらがトルマなのかな、新しいとこんなに綺麗なんですね!
そのほか
敷地内には修復中の建物も点在しており、散歩がてら一周してみました。
亀石
別日となりますが、敷地の外にある亀石も見学しました。
背後に見えているのがエルデネ・ゾーの全景です。
参考文献
最後に、エルデネ・ゾーに関して信頼できる情報源をいくつかご紹介します。
というか、この記事で一番価値があるのは以下の部分だと思います(笑
まずは公式サイトの解説ですね。
モンゴル語のみですが、ここで正確な固有名詞や数字を拾うことができます。
erdenezuu.mn/about
もう一つは、MontsameことMongolian National News Agency(モンゴル国営通信社)の解説記事。Munkhzul氏が考古学的研究の結果をまとめており、観光客がカラコルムで訪れる主な見どころの概要を知るのに役立ちます。
www.montsame.mn/en/read/236919#
文献では、洋書でモノクロですが2011年出版の「Энх тунх Эрдэнэ Зуу: Erdene Zuu – the jewel of enlightenment」が20世紀に入ってからのエルデネゾーと人々との関りを整理しています。Kitagawaは状態の良い古本を手に入れましたが、恐らく日本では入手困難です。一般の方が閲覧できそうな場所として、国立文化財機構の東京文化財研究所にある資料閲覧室を挙げておきます。
論文では、オープンアクセスになっている以下を紹介します。観光客が参考にできるのは序論のパートのみですが、平易な英文で書かれておりゴルバンゾー(三寺)についてプロの研究者が解説するとこうなるのかと勉強になります。話の流れで奈良も出てきていますね。
Bao, Muping. 2024. “The Spread of Tibetan Buddhism in Mongolia from the 16th to the 17th Century: The Spatial Formation of the World Heritage Site Erdene Zuu Monastery” Religions 15, no. 7: 843.
doi.org/10.3390/rel15070843
日本では白石典之先生がモンゴル史研究の第一人者です、興味がある方は学術データベースでお名前を検索してみてください。オープンアクセスになっていて僕のような素人でも楽しめるものとして、以下のような論文も執筆されています。
白石典之(2023):モンゴル高原における遊牧の始まり.「沙漠研究」33 (1):3-8.
doi.org/10.14976/jals.33.1_3
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